老人ホームへの入居に必要となる初期費用。その中で出てくる「入居一時金」という用語は、有料老人ホームを検討し始めて間もない方には耳慣れないものではないでしょうか。
この入居一時金(または前払い金とも呼ばれます)は、入居時に月額利用料とは別に一度だけ支払う初期費用で、 入居一時金は敷金とは別のものです。
入居一時金について、敷金との違いや、一時金ゼロ円の場合と一時金がある場合の違い、退去時に返金される場合について、一時金方式を利用する場合の注意事項など、詳しく説明していきます。
目次
入居一時金(前払い金)とは?
有料老人ホームで必要となる入居一時金とは、居住費の一部を事前に支払う(前払い)方式です。
介護付きホームの費用についての記事に書いた4種類の費用のうち、初期費用に該当します。
入居一時金は前払い金と呼ばれることもあり、施設によっては別の呼び方をしている場合もあります。老人ホームによっては入居一時金がゼロ円のところもありますし、一時金方式と月払い方式から選択できる場合もあります。
一時金方式は入居時にまとまったお金が必要になりますが、その後の月額費用は安く抑えることができます。
一方で、月払い方式は入居の段階で必要となる初期費用が安くなるため、入居のハードルは低くなります。
入居一時金の特徴
入居一時金方式には次のような特徴があります。
- 月々の支払い金額を安く抑えることができる
- 入居一時金をすべて償却した後も入居を継続する場合でも、追加の支払いは不要
- 入居一時金の償却期間中に退去した場合は、残金が返還される
入居一時金は、一定額の家賃を前払いしているかたちになりますので、入居後の月額費用に一定額ずつ割り当てられます。その分、月々の支払い金額は安くなります。
また、入居一時金には初期償却が設定されている場合があります。
初期償却とは、一時金に対して一定比率(比率は施設によって異なる)で設定されていて、その分は入居当初に償却されます。
初期償却分を差し引いた残りの金額が、償却期間中の毎月の家賃相当額から差し引かれます。
残額がすべて償却されて0円になった後も、追加の月額料金が徴収されるることはありません。
月額の支払額が安くなることと、そして一時金の残額が消化された場合も追加徴収がないことが一時金方式のメリットですね。
入居一時金の返還金制度
入居一時金の未償却分がまだ残っている時点で何らかの事情で退去した場合は、残額分は返還されることになっています。
残額の計算は概ねこのような計算式で算出されます。
入居後すぐに退去した場合は入居一時金は返還される?
それでは、入居後何らかの事情によりすぐに退去することになった場合も初期償却費用は戻ってこないのでしょうか?
入居一時金の初期償却がある場合、本来は入居時点で初期償却分が消化されることになっています。
しかし、 90日以内であれば 短期解約特例制度(クーリングオフ制度) が適用されますので、すぐに退去した場合も、90日以内であれば、初期償却も含めた入居一時金を無利息で返金してもらうことができます。(もちろん、家賃や食費など、実際に利用した分は支払う必要があります。)もし、90日以内の契約解除をしたのに入居一時金の初期償却分が戻ってこないようなことがあれば、この制度のことを思い出してください。
入居一時金0円と入居一時金ありどちらがお得?
以上のことを踏まえて、入居一時金を支払わない月額方式と一時金方式では、どちらが金額的に得になるか考えてみます。
償却期間後終了後も長く入居を継続する場合は、入居期間が長くなればなるほど、一時金方式の方が割安になります。
入居時点の年齢が若く、長く入居する可能性がある場合は、一時金方式のほうが総支払額が低くなる可能性は高いです(もちろん先のことはわかりませんが…)。
ただ、施設によっては入居時点の年齢によって入居一時金が異なる場合もあります。当然、長く入居する可能性の高い低い年齢ほど入居一時金の金額が高く設定されています。
この場合は、どちらがお得かは一概には言えないですね。
入居一時金方式は最初にまとまった金額が必要になるので、最初の負担が大きくなります。一時金方式と一時金のない月払い方式のメリット・デメリットを天秤にかけて、どちらが負担なく入居を継続できるかを考えて判断する必要があります。
入居している老人ホームが倒産してしまったら?保全措置について
万が一入居している老人ホームが倒産してしまったら、入居一時金は返還されるのでしょうか?
倒産の場合でも、自己都合による退去と同様に未償却残高は返還されることになっています。しかし、倒産するような経営状態では、施設側に支払い能力がないことも考えられます。
そんなケースに備えて、2021年4月からすべての有料老人ホームに対して、入居金の保全措置を講じることが法律(老人福祉法)で義務化されています。
これはどういうものかというと、もし、施設の経営状態により定められた入居金の返還ができない場合も、施設が事前に契約した保全会社や金融機関が施設に代わって返還義務を保証してくれます。すなわち、入居契約者への返還が保証されているのです。
保全措置は施設に義務づけられており、施設と保全会社・金融機関が契約しますので、入居される方の契約は不要です。保全措置の内容は契約書などの書面に明記することが義務づけられていますので、トラブルを防ぐためにも契約の際書面の内容をしっかり確認する必要があります。
ただし、注意点があります。保全措置には限度額があり、償却分と利用分を差し引いた金額または500万円の低いほうとしているところが一般的です。つまり、500万円を超える金額が残高として残っていた場合でも、500万円までしか保証されないケースもあります。
保全措置の上限については、入居前に確認しておく必要があります。
(弊社の運営する富士山するがテラスの保全措置は、500万円を超える残額についても保全されるものとなっています。)
※このように、保全措置については施設によって異なる場合がありますので、詳しい内容は各施設に問い合わせてください。
敷金とは?入居一時金との違い
入居一時金は有料老人ホームに特有のものですが、敷金についてはイメージしやすいのではないでしょうか?
有料老人ホームの敷金は、賃貸物件を借りる際に必要となる敷金と同じようなものだと考えてください。
賃貸物件と同様、老人ホームの敷金も入居の際に家賃の○ヶ月分といったかたちで老人ホームにまとまったお金を預けます(敷金不要の場合もあります)。
退去時に、家賃の未払いがあった場合は充当され、部屋に破損や汚れがあった場合は原状回復のための修繕費として使用されますが、その分を差し引いた金額は返却されます。
入居一時金と敷金を比較した表を以下に示します。
入居一時金 | 敷金 | |
---|---|---|
目的 | 家賃の前払い | 家賃滞納・修繕費のための担保金 |
月々の支払いへの影響 | 月額料金を減額 | なし |
支払金額の算出根拠 | 初期償却分+想定入居期間の前払い額 | 敷金○ヶ月分など |
返還されるケース | 退去時に未償却残高を返還 | 家賃未払い・修繕費等を差し引いて返却 |
礼金・保証金は必要?
では、不動産の賃貸と同じように、老人ホームに入居の際に礼金や保証金は必要になるのでしょうか?
礼金や保証金、権利金などといった名目の金額の受領は、老人ホームでは禁止されています(老人福祉法)。
以前はそのような制度のある施設もありましたが、現在はなくなりましたので求められることはありません。この点が、不動さんの賃貸物件契約との違いです。
まとめ
今回ご説明した内容は基本的なものですが、入居一時金の有無、初期償却の有無や償却率、一時金の償却期間は施設によって異なります。詳細は契約書に記載されていますが、未然にトラブルを防ぐためにも、契約前に不明な点はしっかり確認しておくことが大切です。
介護付きホームに入居する際に必要となる初期費用や月々の費用については、「介護付きホームの費用!平均や相場が参考にならない理由」のほうにまとめています。
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